「蒼ざめた星」感想

つうことで「蒼ざめた星」の感想〜。
デビュー前の作品ですからね。
すごーく気に入った、文句なく傑作だぁという方は読まない方がいいかもしれませんが。
コンタクトレンズについて。
状況として。
1.格闘中に落ちた
2.舗装されていない道
3.光源は月と車のヘッドライトのみ
1.の状況下の場合、どこで落としたか分からないし、落ちた後更にどこかに飛んでいったかもしれない。踏んで割れたかもしれない。そんな中じゃ誤って車で引くかもしれないから、怖くて車なんて動かせないじゃなかろうか。
2.小石の後ろやちょっとした溝にはまっていたら、ヘッドライトなんて1方向からの光じゃ無理だと思う。
3.コンタクトは地面にかがんで捜すしかないわけで、上からの月明かりや横からのライトじゃあ自分の身体で影を作ってしまう可能性がある。やっぱり懐中電灯は入り用だと思う。


たとえ昼間の舗装された道であっても、ちょっとした障害物があるだけでコンタクト探しは絶望的です。どんなに時間があったとしても無理。まだ懐中電灯をとりにいく方がまし。
いっそ、粉々に踏み潰し証拠隠滅するつもりで車をくまなく走らせる方が効率がいいようにさえ思う。
しかも、最近のハードコンタクトレンズって色がついてますよね。あれは落ちた時に見つけやすいようになってるわけで。つまり1980年代当時はそれだけ見つけられない事が多く、紛失しやすかったってことです。
捜せないじゃなく、コンタクトレンズを落とした人の心理として、こういう行動に出る理由を納得させる説得力に欠けているんじゃないかな。
というのが、ハードコンタクトレンズを常用している人間の意見です。
却って眼鏡の方がすぱっと綺麗に収まったんじゃないかな? 伏線にそれをどう埋め込むかはまた別の話だけど。


突発的な殺人だったということは、ビールの缶やおつまみの袋などにもしっかり指紋がついていたはずです。
現場検証の際、留美がハンカチを扇代わりに仰いでいるような暑い最中でさえ、犯人はハンカチで顔を拭うような事をしていない。ということは単純にそうそういつもハンカチを持ち歩いているような人間じゃない可能性がある。
さらに裸眼。例え片目が無事だったとしても、片目なんて却って両目外した方がよっぽど楽ってくらい見づらいです。
ダッシュボードは当然手探りに頼るはず。
ましてハンドルを握って更にバック運転まで、まったく指紋を残さずになんて出来るんだろう?
コンタクトをとってもさして日常生活に支障なしとか。
ちゃんとこうやれば可能。っていう処まで書いてないと納得するのは難しいなぁ。
そもそもが車内の指紋についての情報って提示されてたっけ?


とまぁ色々書きましたが。
一番若書きだな、と思ったのはミステリ部分じゃなくて江神さん。殺人現場が好き云々はさておき。
ともかく江神さんが若い。しゃべり方からして違う。
私の中では江神さんはあまり断定的なものの言い方をしない探偵という印象があるのだけど。
違ったっけ? 最近読み返してないから自信ないけど。
「これも慈悲やと思う」の名台詞が頭にこびりついてるせいかなぁ。
ともかく、その辺りが読んでいてすごく違和感があった。
モチや信長とは違う「何か」がない。EMCの他のメンバーとの境界線のようなものが見えない。
普通の大学生であって、長老と言われるような貫禄がない。


それは多分、有栖川先生が当時まだ江神さんより若かったせいじゃないだろうか。
その年齢に達しないと人物が描けないようでは問題があるのでは? とか言う意見はこの際無視。
結果オーライだよ。
それに、これは他のキャラクターだったら問題なかったのだと思う。
江神さんというキャラクターが持つ設定上、年下の仲間たちをどこか俯瞰して見ていたり、温かく見守っていたり、その雰囲気は、先生が大学を出たあとだから出せた味わいかもしれない。
もし先生がもっと若い頃にデビューしていたら、江神さんのあの設定はそもそも生まれていなかったかもしれない。
そうしたら、学生アリスシリーズの方向性ももっと違うところに行っていたかもしれない。


だから何が言いたいかって言うと、つまり先生が、江神さんの年齢を追い越してから江神シリーズを商業ベースで発表出来たという事。
これは正解だったんだな、と思ったということ。先生、作家になることを諦めないでくれてありがとうってこと(笑)。
それと。作家を志してずっと頑張っているけど芽が出ず諦めかけている人たちにとって、この作品は最良のテキストなんじゃないかなってこと。