ひきこもり

有栖川先生の解説につられて1巻2巻と買ったけど。
私には思っくそ外れだった某書の感想というか鬱憤ばらしに近いものがあるので。
該当作にピンときて、尚且つその作品が気に入っているならここから先を読まれない事を強くお勧めしておきます。
いや、ホント。
ここまで腹が立ったキャラクターって、メルカトル以来かしら? ってな感じに、かなりブチキレましたから(笑)。
あー内容についてもネタバレ込みで暴言吐いてます。


有栖川先生は探偵が好きになれないと書いていたけれど。
あれは、母性本能くすぐるタイプだから男性受けはしないかもね。
私の好みではないけれど。
でもそれよりも、あの主人公の方が好きになれない。っていうか積極的に嫌いです。
彼のやっていることって、虎の威を借る羊じゃん。それとも羊頭狗肉がいいですか?

何が嫌って、高校の頃から自分は平凡だからと、自分を見限っていた事が気に入らん。
あんたは、何かを血を吐くほど努力して手に入れようとした事が本当にあるのか?
努力する天才に所詮凡人は絶対勝てやしないと、悔し泣きした事があるのか? 血を流した事があるのか?
その上で自分は何もかもが平凡だと言っているというのか? たかだか高校生のガキが? 甘ったれるな。


彼は、平凡である自分を変える努力をせず、人を踏み台にして上位に立とうとした。
気持ちいいだろうねぇ。
本当だったら自分がまったく及ばない見上げるしかない天才を見下ろす(いや、見下すか?)事が出来るんだから。
自分より人間が上等だと思っている相手が、自分がいなければダメだと縋り付く。
そりゃさぞ、てめえの自尊心は満足するでしょうよ。


いっそ、恋愛感情に落としこんだ方がまだ納得するよ。
違うんでしょ? ホモフォビアなんでしょ?
ってことは、主人公にとっては天才であり尚且つ自分が有利に動ける弱点の持ち主でさえあれば、彼である必要はなかったわけか?
平凡な自分を引き立ててくれる天才でさえあれば。
そりゃ依存もするだろうよ。自分がただの平凡な人生を送らないで済む大切な養分なのだもの。
うああああああ、腹が立つ、腹が立つ、腹が立つっ。


ぐらいの勢いで腹を立ててました。ほら暴言だ(笑)。




高校の頃、この探偵とは違うけど。
当時「ひきこもり」なんて言葉の無かった時代。
保健室登校していた子に依存されまくった事があります。
元々あまりその子の事は好きじゃなかったから。
どうしてそこまで依存されたのか未だに分からんのだけど。
何故か気が付くと彼女の世話は私1人に押し付けられてまして。
正直あれほど苦痛だったことはない。
図書委員の仕事をしている時と、部活に出ている時だけが、彼女から離れられる時間で、唯一自分の事を考えられる時間でした。
彼女に何かあるとすぐ飛んでいかなきゃいけない。
何かあると保健室に連れて行ったり、教室に戻るよう誘ったり。
自分の時間が作れない。クラスの子とおしゃべりする暇すらない。
ある日、彼女が比較的落ち着いてノートに絵でも描いて静かにしていたので、私も自分の席に戻り本を読んでいたら、クラスの子が、すごーく久しぶりに話かけに来て、単純にわー嬉しいなぁと思ったら。一言。
「どうしたの? あなたたちケンカでもしたの?」
その言葉がどれだけショックだったか。分かるかな。
そんなにいつも私は彼女の側にいなきゃいけないのか。
自分の時間を持つ事すら許されないのか。
そう思われている事実に泣きたくなった。


彼女は常にクラスの子たちから、ちょっと可哀想な子として認識されて、大事にされていた。
「大丈夫?」「無理しないでね」てね。
じゃあ自分は?
そう考えるとたまらなかった。
このクラスでの自分の存在って何?
自分のアイデンティティって何なんだ?
このままだと自分が無くなる。


ぶっちゃけ、ケツを巻くって逃げましたわよ。クラス替えを機に。
なるべく彼女のクラスの前を通るのを避け、すれ違っても気が付かない振り。
彼女が、私を追って図書委員になった時点で、最後通牒渡して。
ともかくシャットアウト。
それは反省すべき事なのか今でも分からないけれど。
そうしないと絶対こっちがダメになると思った。
絶対ダメ。こっちが壊れる。


それくらい相手から依存される負荷はでかい。
自分を全部何もかも捨てられる覚悟がないと無理。
平凡だから、憧れだから、なんて言ってる余裕すらない。
マジな話、恋愛感情でもなきゃとてもじゃないけどやってられないんじゃない?
主人公がそこまで大変な思いをして側にいる、というよりは。
著者が「依存」を軽く考えてやしないか?


「体育会系」なんて言葉も、随分ひどい言葉として使われてたな。
あ、この人体育会系が回りにいねぇな、と思ったもの。
いないくせに体育会系が嫌いな人の典型?
命令されるのが好き? 莫っ迦じゃないの?
そりゃ下っぱ時代は命令されるばっかりでしょうよ。
けど体育会系の特色って普通に考えても縦社会だよ?
命令されていた人間も、そのうち嫌でも後輩に命令する立場になる。
後輩の世話焼きが良くも悪くも上手いのは体育会系の特色じゃん。
歌って踊れる体育会系でも仕事は理系で趣味は文系なミステリファン(笑)としてはもう腹が立つのなんの。
体育会系を莫迦にするな、と言いたい。


何か本当にもうね、まず「記号」というか「名札」ありきなんだよな、この人の世界観て。
なんていうか。全ての知識が生易しい。
美人を描くのに「美しい人」と書いてしまう。どこがどう「美しい」のかが伝わらない。


作者の考える予定調和内で話が書かれているとはAさんと話していたのだけど。
作者の脳内で話が全て完結している。
世界がぐるっと丸く切り取られて地上から浮かんだ空の上。
そのフチには「この世の果て」と書かれた看板が立っていそうな世界って言って伝わるかな?(笑)
箱庭? ミクロコスモ?
盆栽ってあれだけで世界を作ってるよね。
不必要に捻じ曲げられて世界からはみ出ないようになっている。
無理やり捻じ曲げ閉じられた世界。
んー「ゴドーを待ちながら」が近いか?
何かそんな印象。


あー、それとスペイン語に対して言わせて。
父親が「コモ トウ ジャマ」と言ってたよね、確か。
これ、私が知ってる限りではスペインのスペイン語
もしメキシコのスペイン語なら「コモ トウ リャマ」。
勿論その程度の違いっていうか訛りなら伝わるさ。
けどさぁ、ミステリだよね。
少年がこの言葉に反応したって時点で、私はメキシコ人っていう考えを捨てざるを得なかった。
まったく。こんなミスリードありか?
著者が意識しての事なら「こいつはやられたぜ」と思えるけど。
どうもそうは読めない。
あのね。メキシコ人が良く言う言葉にね、こういうのがあるの。
「ミカサ ツカサ」。
折りしも主人公の名前は「ツカサ」でしょ? 絶対ラストで使うと思ったんだけどね。
内容にも合うし。
それを使わなかったってことはメキシコのスペイン語に詳しいわけじゃないんじゃないのかと思ってしまう。
「ミカサ ツカサ」ってのはこんな意味です。
「mi casa tu casa」=「私の家はあなたの家」


なんか感情論で書いてるので矛盾してるとか、突っ込み処がありそうな気もしますが。
読み返してないし(え?)。
とりあえず分かった事は、「本格ミステリ」に対しては、駄作であっても腹が立つ事はないんだけど。
(そこを突っ込んであーだこーだと話す楽しみがあるから)
キャラクターの造詣に嫌悪感があるとそれだけで腹が立つようです。
「キャラが立っている」ほど読みづらいのか? そりゃ、古典のが読みやすいわけだわ(爆)。




19日追加分
糸魚川さんのコメントを読んで思ったことなのだけど。
確かに、登場人物は、こんな人がいたらいいよな、と思ってしまいそうないい人ばかり。
のような気がする。
自分より明らかに年下の人間が呼び捨てにしようと文句を言わない。
電車に爆弾を仕掛けたといたずら電話をした少年の罪には拳骨ひとつでおしまい。
例え下心があったとしても、人が手伝ってあげようかと言っているのに喧嘩口調の物言いをした事に対して誰もそれを咎めない。


優しいよね、心が広いよね。
でもこれって本当に許されていいことなのか?


年上全て敬意を払えとは言わない。けれどまったく見知らぬ他人を呼び捨てにしているのに。
どうして誰も注意しないのだろう。
それどころか主人公はその正当性を認めている。
奥さんと呼ぶのが個人をさしていないというのなら、さん付けすればいいだけだ。


電車が止まってしまったせいで、もしかしたら商談に間に合わず責任をとって首を括った人がいるかもしれない。体調が悪くてともかくこのまま電車に乗れば自宅近くまで行けるからと、気分が悪いのを我慢して乗っていた人がいたかもしれない。そういった事を指摘こそしたけれど、どうしてそれが一発ぶん殴って終わりに出来るんだろう。
謝るべき相手は、迷惑を蒙った人たちであり鉄道会社の人たちのはずだ。
その人たちを一切無視して、そういう可能性だってあったんだぞ、で終わってしまう。
きちんと法の下の裁きを受けさせるべきじゃなかったのか。
例え子供であっても悪い事をすれば裁かれると、大人は守ってくれないものだと教えるのが本当の大人の勤めではなかったのか?


見も知らない他人に「触らないで」まで言われて怒らない人がいるだろうか?
人の頬を叩いておいて、殴り返したからと言って「そらみろ、やっぱりあんたは野蛮だ」と言っているようなものだろ?
どうしてそれを教えてやろうとしないのだ?


この作品の登場人物はみんな優しいかもしれない。
けれどこれを本当に優しさと言うのか?
例えば、この人たちに愛されてさえいれば、もし人を殺しても、「もう二度とするんじゃないよ」といい含められ怒られ反省してみせたなら「じゃあ、自分は警察の上層部にコネがあるからなんとかしてあげよう」とでも言い出しそうな優しさに思えて仕方がない。


痴漢を一度捕らえただけで感謝状でしたっけ? 私は4度捕らえた事あるけど(一度は駅員に引渡した時点で間抜けな駅員が逃がしやがったけど)、何も貰ったことないんですが(笑)


そう、まるで「人生はこんなに人に優しい」と言われているような夢物語のような生ぬるさなのだ。
別に艱難辛苦を乗り越える話でなければ認めてないわけじゃない。
悪い事をすれば、それは必ず自分に返ってくるといった教訓めいたものを書けというわけでもない。
けれど、こんな世界はやっぱりおかしいと思ってしまう。
悪い事をしたならば例え裁かれなくとも、自分の良心がそれを許さないような、そんな当たり前の世界が、ここには存在していない。
それがひどく居心地悪く、キモチの悪いものにさせているのではないだろうか?